2024/12/07 大学より

【生涯学習センター】2024秋・公開講座開催報告

どうして何百年も生き延び、親しまれてきたのか。 英語圏の人々の生活に深く入り込むマザーグースの魅力とは?

欧米映画の鑑賞や本を読んでいるときにこんな経験はありませんか?突然、脈絡のないセリフやエピソードが差し込まれて「何を言っているの?」と置いてきぼりにされて、いつの間にか次の展開になっている……。
聖書の一節でもシェイクスピアのセリフでもなさそう…はて?
それは往々にして、マザーグースの唄によるものかもしれません!英語圏の人々が、日常会話の中で、自分の伝えたいことを表現するために、唄になぞらえ、言い替えて使われることがあるというマザーグース。( Mother Goose は「子ども部屋の押韻詩」、つまりNursery Rhymeとも呼ばれます。)
講師 富田敏明先生は「講座の準備段階ですら楽しい」と話されて 講座に臨んでくださいました。

聖書、シェイクスピアに続き、欧米文化を知る術の一つ伝承童謡「マザーグース」

古くから親しんでいる英語圏の人々にとっては、幼いころから普段の生活の中に馴染み、日常的に浸透している童謡だといいます。

日常でのマザーグースの割合

700~ 1.000とも言われる唄のうち、マザーグースで育った英語話者は100ほどは自然に身についていると言われます。

韻を踏み、リズムに富んだ言葉遊びの唄

講師は「日本人が想像する以上に韻を踏むことを大切」にされている世界だと繰り返し受講者に伝えます。英語圏の人々は「わけが分からないこと」を“without rhyme or reason”(韻[rhyme] もないし、道理[reason]もない)と伝えますが、内容が今ひとつでも、言葉の響きの良さで評価されることもある、というのです。
それぞれの唄の出自は、作成年代も作者も不詳のものが多く、出自の分かる唄は稀少。今、残る唄は長い間に伝わる中で「舌の上で転がされて角が取れ」て「余分なものが脱落してしまった音の精髄」(米 ベアリンググールド夫妻”The Annotated Mother Goose”(1962))だと言われています。
出自が様々なので、由来のあるもの、言葉遊びの要素が強く意味を考えてもしょうがないものなど様々。
暗い歴史を感じる唄(London bridge is falling down[ロンドン橋])、権力者を揶揄したという唄 (Geogie Porgie)、言葉遊びが勝り意味不明な上にブラックユーモアな唄(Three Blind Mice)、子どもに生活習慣を教える唄、親子のコミュニケーションとして使われる指遊びの唄、子どもの鬼決め唄、そしてよく知られている歌「きらきら星」(Twinkle Twinkle Little Star)もマザーグース!
唄に馴染んだ英語圏の人々は普段の会話に取り入れるなど感覚的に使えるほどの素地ができる環境にあると言えます。

唄と子ども

テンポが良くて可笑しさが詰まったマザーグースの唄を子どもは素直に受け入れます。一見、残酷な唄であってもリズムに富んだ唄を替え歌にするなどして楽しむそうです。
「唄には子ども(人)の「心を解放する」力がある」と講師。大人が常識的な言葉に書き直した唄は、子どもには見向きもされず、新しい唄は伝わらなかったというエピソードも紹介されました。

唄をイメージして生まれたもの

詩人や画家、作家などの芸術家にとっては、インスピレーションを与えて創作意欲を煽る存在でもあるそうです。
芸術家たちによって独自に表現されたマザーグースの世界は、詩や絵画、文学を通して新しい世界観を持って表され、鑑賞者や、読み手を一層魅力ある世界へと導きます。
毎回講座のタイトルに合わせて、詩や文学が紹介されましたが、マザーグースの唄の絵本では挿絵も示され、受講生は講師から回された絵本を鑑賞し、唄をイメージした絵の世界と作家達を知ることができました。

マザーグースの扉を開く

全6回の講座を通し、講師厳選による40点の唄が紹介されましたが、唄の原文を声に出して読むことで、韻を踏む言葉の流れと面白さを感覚的に身に付けるよう進められました。連なる単語の音や響きは英語で原文を読まないことには理解しにくいためですが、それと同時に日本の詩人、故谷川俊太郎さんや絵描きの故和田誠さんなどによる和訳の唄も紹介され、日本語に変換されたマザーグースの唄の絶妙な訳詞の世界も、受講生の心を捉えたようです。

時にビデオによる視聴では、プレゼンターが如何に唄を効果的に使っているのか、また親子や保育園、学校の中で子どもが遊ぶ時にはどのように唄を使っているのか、映像を観て知ることもできました。
マザーグースの唄と日本の和歌とを対比させて、音韻や音の強弱の違いといった特徴が語られるなど、多彩な視点で披露されて、まさに「マザーグースの世界」の扉を開く講座でした。

受講生の感想から

欧米理解に繋がる重要な知識、英語を学ぶ人はマザーグースの唄の知識を持つと良い、と感想を寄せた受講生。
韻を踏む楽しさに接して詩を作ってみたくなったという受講生。講師からのお勧め本も、講座を受けて読むことで、単に本を読むと比べて格段に面白いと言った受講生。さらに第2弾の講座を望む声も…。
マザーグースとその周辺に深い知識を持つ講師への感謝の声も寄せられました。
毎回の配布資料には、受講後も唄を音読できるよう単語の音の強弱が分かる資料も含んでおり、マザーグースの魅力と楽しさを知ってほしいという講師の気持ちが伝わるようです。
紅葉を眺めつつ始まった講座は初冬に終わり、受講生からは、欧米文化の新しい知識や視点に触れた喜びと、毎回の講座への期待する声が寄せられ、最後の講座は名残惜しいとの声も聞かれつつ講座は終わりました。

講義中の様子
札幌国際大学生涯学習センター事務室

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